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29歳、もう一度空へ

2026年09月03日

ノルディック複合からスキージャンプへ転向することを表明してから、1カ月が過ぎました。
スキージャンプのサマーシーズンも始まり、今までとは全く違う環境で、本格的なスキージャンプ生活が始まっています。
転向を発表したときから、たくさんの方に驚いていただき、そして温かい言葉をかけていただきました。
今回は、転向を決めてから現在までのこと、そして今、自分が何を感じながらスキージャンプに取り組んでいるのかを書きたいと思います。

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改めまして、これまで長年にわたり「ノルディック複合の山本涼太」を応援してくださった皆さん、本当にありがとうございました。
ノルディック複合からスキージャンプへの転向は、驚かれた方も多かったのではないかと思います。

もちろん、私自身にとっても、とても難しい決断でした。
小さい頃、父親の影響で始めたノルディック複合。そこから私はこの競技にどんどんのめり込んでいきました。
ジャンプとクロスカントリーの2種目を組み合わせて行うノルディック複合は、スキーを履いて行う「滑る・飛ぶ・上る・下る」といった、さまざまなスキー操作を身につける必要があります。
選手のスタイルもさまざまです。
ジャンプが得意な選手、クロスカントリーが得意な選手、両方を高いレベルでバランスよくこなす選手。

そこに正解はありません。

その自由さが、時に私の興味をそそり、時に私を悩ませてきました。
私自身、長い競技生活の中で、ジャンプのトレーニングに力を注ぐとクロスカントリーのパフォーマンスが下がり、逆にクロスカントリーに力を入れるとジャンプが飛ばなくなるという経験を何度もしてきました。

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どちらか一方だけでは勝てない。

その難しさこそが、ノルディック複合の魅力でもありました。
私の生活の中に長い間存在し続けたこの競技は、間違いなく、かけがえのない時間でした。
だからこそ、離れることを決めたときの寂しさは今でもあります。

私が転向を考え始めたのは、ミラノ・コルティナオリンピックが終わった後です。
私にとって、オリンピックという舞台は競技人生の最大の目標です。
その舞台が、4年後にはなくなるかもしれない。
その現実を知ったときのショックは、今でも覚えています。

そして、もう一つ、私の中に強く残っていたものがありました。
オリンピック終了後、1週間ほどして行われたワールドカップで、私はフライングヒルを飛びました。
ジャンプ界でも最も大きなジャンプ台の一つであるフライングヒル。
K点が200mに設定され、通常のジャンプ台では考えられないような飛距離を目指します。

そこで感じた、空を飛ぶ感覚。

あの感覚が忘れられませんでした。
「来年も飛びたい。」
その思いが、競技生活の中でずっと残り続けました。

オリンピックを目指したい。

そして、もう一度フライングを飛びたい。

その二つの思いが重なったことが、今回の決断につながりました。

転向を表明して数週間後、スキージャンプ選手として初めて試合に出場しました。
緊張と不安で正直、いつも通りのことが全くできない。
でも、不思議なことに、できないことが増えるほど、ワクワクする気持ちも強くなっていきました。
これまでの競技では、長い年月をかけて積み重ねてきた「慣れ」があります。
呼吸をするように、自分が何をするべきなのかが整理されていました。

しかし、スキージャンプは違います。
リズムも、時間の感覚も、身体の使い方も、すべてが違う。
何もかもが新鮮でした。

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そして迎えた、スキージャンプ選手としての一試合目。
北海道名寄市で行われた国内戦で、新たな競技人生がスタートしました。
この大会は、ジャンプのルールの中でもウインドファクターやゲートファクターがない大会でした。
つまり、条件による補正がありません。
単純に、その時の自分のジャンプで勝負する。
どんな条件でも、レベルの高いジャンプができるか。
そこが重要な試合でした。

結果は、優勝。

スキージャンプ選手としての初戦を、優勝という形でスタートすることができました。
正直、自分でも驚きました。
もちろん、まだまだ分からないことだらけです。
それでも、「ここから始まるんだ」と強く感じた瞬間でした。
名寄からこれまで、計6試合に出場してきました。
結果を見ると、成功と失敗の幅がかなり大きくなっています。
それは、まだ技術的な部分が定まっていないからです。
良いときは良い。
でも、少し何かがずれると、ジャンプ全体が大きく崩れてしまう。
その繰り返しです。
ただ、試合を重ねる中で、少しずつスキージャンプという競技の難しさが分かってきました。
特に感じているのが、ノルディック複合のジャンプとの違いです。
複合のジャンプでは、ある程度スピードを出して行うことで、多少のミスをカバーできる条件で試合が行われています。
もちろん複合のジャンプも簡単ではありません。
ただ、スキージャンプでは、よりシビアな低いスピードの中で、1つのミスが数メートル、時には数十メートルの飛距離の差につながります。
今、私が身体の感覚として目指しているのは、「脱力」です。
力を入れて飛ぼうとすると、いわゆる「マッスルジャンプ」になってしまいます。
自分の力だけで飛ぼうとしてしまい、風圧やスピード、スキー、空気といった、自分以外の力をうまく生かしきれなくなります。
スキージャンプは「飛ぶ競技」ではなく、「落ちる競技」。
いかに落ちる場所を遠くにするか。
今はそんな感覚で、自分のジャンプを作ろうとしています。
自分自身でどうにか飛び跳ねたくなるのを我慢して、すべてをバランスよく使う。
これまでの競技生活では、あまり深く取り組んでこなかった感覚です。
だからこそ、今はそこに着手しています。
でも、これは本当に難しい。

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皆さんは、手を「グー・パー」と曲げたり伸ばしたりするときに、重力を感じますか?
空気の層を感じますか?
おそらく、普段はそんなことを考えないと思います。
でも、スキージャンプでは、そういった目に見えないものを感じながら、自分の身体を動かしていく必要があります。
まだ私自身、うまく言葉にできない感覚です。
そして、今も「脱力ジャンプ」を練習していると、ふと頭をよぎることがあります。
「これ、フライングでやったらどうなるんだろう……。」
やっぱり、私の中にはフライングヒルへの再挑戦が目標の一つとして残っているようです。
もちろん、今はまだそこを語れるほど簡単な段階ではありません。
まずは目の前のジャンプを一つずつ積み重ねていくこと。
それが今の自分にできることだと思っています。
スキージャンプ選手としては、まだ始まったばかりです。

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29歳からの挑戦。

もう一度あの大舞台を目指せることを、今は楽しみにしています。
そして、いつかまたフライングヒルに立ちたい。
あの空を、もう一度飛びたい。
これまでノルディック複合を応援してくださった皆さんにも、これからスキージャンプに挑戦する私にも、変わらず注目していただけたら嬉しいです。
ノルディック複合で積み重ねてきたものを胸に、新しい競技人生を一歩ずつ進んでいきます。
これからも応援よろしくお願いします。